アシナガバチが私たちに鋭い痛みを与える毒針は、実は非常に精巧で機能的な構造を持っています。一見するとただの細い針のように見えますが、その実態は獲物を仕留め、敵を撃退するために進化してきた驚くべき器官なのです。アシナガバチの毒針は、産卵管が変化してできたもので、メスだけが持っています。この針は普段、腹部の先端に格納されています。構造的には、主に一本の鞘針(さやしん)と、その内側にある二本の刺針(ししん)から構成されています。私たちが刺されるとき、まず先端が鋭利な鞘針が皮膚を貫き、そのガイドに沿って、ギザギザの返しがついた二本の刺針が交互に滑るようにして深く侵入していきます。この巧妙なメカニズムにより、比較的少ない力で効率的に皮膚の奥深くまで針を到達させることができるのです。そして、針が刺さると同時に、針の根元にある毒嚢(どくのう)から毒液が送り込まれます。毒嚢は筋肉に囲まれており、この筋肉が収縮することで、ポンプのように毒液が針の内部を通って体内に注入される仕組みです。この一連の動作が瞬時に行われるため、私たちは刺された瞬間に激痛を感じることになります。ここで重要なのが、ミツバチとの違いです。ミツバチの刺針には大きな「かえし」がついているため、一度刺すと針が皮膚から抜けなくなり、蜂は内臓ごと引きちぎれて死んでしまいます。一方、アシナガバチの刺針の返しは非常に小さく滑らかなため、刺した後に針をスムーズに引き抜くことができます。これにより、アシナガバチは危険が去らない限り、同じ相手に対して何度も繰り返し刺すことが可能なのです。この能力は、巣を守るための強力な武器となります。たかが一本の針と侮ることはできません。アシナガバチの毒針は、効率的な穿刺と毒液注入、そして再利用性を兼ね備えた、生物の進化が作り出した驚異的なマイクロマシンと言えるでしょう。